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サイクルオプス製品レビュー: DC Rainmaker on パワーキャル Vol. 3


アマチュアトライアスリートで相当なガジェット通のアメリカ人ブロガー、DC Rainmakerさんによる、パワーキャルの徹底検証ブログ記事です。以下はその翻訳です。原文は長文のため、全3部に分けてご紹介いたします。最終回である第3部は下りや停止中のデータ精度の検証や筆者によるまとめです。


原文掲載日: 2012年11月14日
文: DC Rainmaker




■コースティング、下りのテスト結果

パワーキャルの性能について、おそらく誰もが「どうなの?」と疑心の目を向けるであろう、下り、それもコースティング時での算出データを考察してみよう。もちろん、プロ選手なんかだと下りでもペダルをガンガン踏んで高いワットを出したりするが、通常はペダルを軽く回す程度で下ることが多く、よく「ソフトペダリング」と言われるように、クランクをゆっくり回し、数十ワット程度のパワーを出すのが一般的な下り方だろう。

下の表は最近の僕のライドのダウンヒル部分を取り出したものだ。



茶色のシルエット:
水色のライン:

青いライン:

赤いライン:

これがコース断面図。左から右へ向かって基本的にはダウンヒルの地形となっている。
ケイデンス。通常、僕のケイデンスは90〜100回転だが、下りセクションでは基本的に70回転/分あたりと、足を軽く回しているだけなのが分かる。
心拍数。全体でみると安定しているように見えるが、少なくとも前半部分はわずかに下降傾向にある。
パワーキャルが導き出したパワー数値だ。



まず最初にグラフの左側1/3部分、それもグラフの底に近いほう、パワーとケイデンスのラインがある箇所にズームイン。ペダルを踏むと水色のラインがゼロ(グラフの底)から跳ね上がっているが、ここではケイデンスのこの水色ラインが僕の実際の動作を忠実に示したデータとなる。そしてパワー(赤いライン)が毎回水色ラインにわずかに遅れて上昇する。



次は青いラインの心拍を見てみよう。ペダリングを再開した箇所では、心拍のラインでも小さな跳ね上がりが確認できる。これは、ペダルを踏むことにエネルギーを費やしたことが、心拍の変化を引き起こしているのだと、簡単に理解できるだろう。黄色のハイライトで示した箇所では心拍の上昇が開始したところだ。そしてパワー(赤いライン)がこのハイライト部分にピッタリ合わせて跳ね上がっていることが分かる。



心拍の変化と書いたが、肝心なのは「心拍数が上がった」ではなく、むしろ「心拍のリズムに変化が生じた」ということである。下のグラフの青色ライン上に引いた黄色のハイライト部分を見てほしい。それまで下降を続けてきた心拍(右下がりのライン)が、ハイライトの引き始め(左端)部分あたりで下降から横ばい状態に入る。パワーキャルはこの心拍の「傾向」の変化を検知するのだが、その時にこう判断する。「今、ユーザーはペダルを踏み始めたに違いない、そうでなければ心拍の降下が続いたはずだ」と。これが、赤ラインに引かれた黄色のハイライト部分が示すパワー数値上昇のロジックだ。そして心拍ライン上のハイライトの終わり部分で心拍の上昇レートが緩むと、パワーキャルは「ペダリングを弱めた」と解釈するので、パワーの上昇もそこまでとなっているのである。



上の事象は同じ箇所のケイデンス(水色ライン)からでも判断できるのでは?と思うかもしれない。しかし「ケイデンスの落ち込み」=「ペダリングを弱めた」とは限らない。重いギアに入れ替えて、クランク回転数が下がって、しかしより大きな力でペダルを踏んでいる可能性も考えられるからだ。しかし実際のライドでは、パワーキャルが「推測」したとおりの動作(ペダリングの停止)を僕はしていたわけで、これはパワーキャルだからこそ見えてくる情報のひとつだ。

パワーキャルの判断の正確さを証明するものをもうひとつ。当該ライドを同時計測していたパワータップのデータが下のグラフだが、パワーキャルの描くラインとほぼ同じ形状となっている。



ついでにもう一点、停車中のデータについても調べてみた。下のグラフでは2箇所の黄色のハイライト部分で、信号待ちなどでそれぞれ15秒間ほどスピードが0km/hになっている。



緑色のラインがスピードのデータ、赤はパワーだ。ここまでの検証から予想がついたかもしれないが、スピードがゼロになるより先にパワーがゼロになっている(停まる前にペダリングを止めるため)。毎回の停車がこのグラフのようにキレイにゼロを記録するわけでもないが(最初の停車中に見られるように、パワーが現れたりすることもよくある)、だいたいの感じはこれで掴んでもらえるだろうか。

パワーキャルはコースティングだとかダウンヒルだとかではなく、あくまでも心拍を―より厳密に言えば心拍の変化、そして心拍リズムの変化を計測の拠り所にしていることが再確認できた検証となった。



■キャリブレーション(本生産品でもやろうと思えばできる)

パワーキャルのキャリブレーション機能は現在、公式にはなくされたことになっている。1年前のプロトモデル発表時では、パワーキャルは購入時のみならず、フィットネスレベルの向上具合によって4〜8週間ごとにキャリブレーションテストを行うことが必要または望ましいとされていた。

しかしこの夏の製品販売開始に際し、そのキャリブレーション作業は不要となった。その理由は以下のメーカーからのメールで説明されている。


「量産品のパワーキャルでもキャリブレーション機能は生きていますが、コロラド大学ボルダー校での研究では、定期的なキャリブレーションがデータ精度向上に寄与するとの結論に至るような結果が出ませんでした。したがって、手間と時間をかけて行うメリットはないと判断し、製品の発売にあたり、キャリブレーションは不要としました。これはあくまでもパワータップがターゲットとしている非常に広範なアスリートタイプの場合の話であって、なかにはすべての使用シチュエーションにおいて、キャリブレーションテストの実行によりデータ精度が大きく上がったテストユーザーもいました。ただ、両者間でキャリブレーションの効果に差が出た、その理由は不明です。」


メーカーの言うとおり、量産パワーキャルでもキャリブレーションは可能だ。でも僕の場合、2011年のインターバイクでもらい、使用前にキャリブレーションテストを行ったパワーキャルと、今回キャリブレーションをせずにファクトリーデフォルトのまま使用した量産品とで、記録されたデータに大きな違いは見つけられなかった。

キャリブレーションを試してみたいという人のために書いておくと、パワーキャルのキャリブレーションテストは実質的にスレッショルドテストの類のものだ。サイクルオプスの公式なテスト手順は以下のとおりだ。きちんとキャリブレーションのかけられたパワータップのような実測式パワーメーターなど、必要なもののリストは以下のとおり。


・ 実測式パワーメーター
・ パワーキャル
・ 心拍とパワーを記録するためのサイクルコンピューター
・ ANT+ USBスティック


上記を用意したら、各デバイス同士のペアリングを行い、PowerAgentを起動し、ANT+ USBスティックをパソコンのUSBポートに挿す。そして以下のテストメニューをこなす。


【キャリブレーションテストメニュー】
ウォームアップ: 5分
ベリー・イージー: 3分
イージー: 3分
モデレート: 3分
モデレートリー・ハード: 3分
ベリー・ハード: 3分


当初の公式資料には、テストの例として下のグラフが掲載されていた。



テストデータをPowerAgentに取り込んだら、PowerAgentでそのファイルを開く。

ウォームアップの開始時点から最後のメニュー(ベリー・ハード)の最後までをマウスドラッグでハイライトし、メニューバーからTools > Configure PowerCalと進む。するとポップアップウィンドウが立ち上がり、そのなかでキャリブレーションがハイライトされた状態になっている。OKをクリックすると、別のポップアップが表示され、新しいパラメーターの確認を行う。OKをクリックする。するとまた別のポップアップが現れ、パワーキャルのパラメーターの更新を実行するか聞いてくるので、ANT+ USBスティックがパソコンのUSBポートに差し込まれていることを確認し、OKをクリック。パラメーター更新が成功したら完了だ。





これらの作業が完了したら、その後はパワーキャルだけを使用する。パワータップを用いてのキャリブレーションテストは4〜8週間に一度行うだけでよい。


■サマリー

ここまで読めば、パワーキャルが自分のトレーニングに使えるツールなのかどうか、だいたい分かってきたことと思うが、最後に今一度、パワーキャルの長所と短所についておさらいをしておこう。


【長所】
・ とにかく安い。これまでのパワーメーターの相場からすると破格だ。
・ 本格パワーメーター導入への足掛かりとして最適。
・ ANT+通信規格採用で、今使っているANT+デバイスと使用できる。
・ 単純にANT+心拍ストラップとして使うこともできる。
・ キャリブレーションが可能(やりたければ)。

【短所】
・ 短時間トレーニングでのデータ精度は粗い。
・ 中・長時間トレーニングでのデータ精度は、様々な要素に左右される。
・ リアルタイムでのパワーの変動幅が大きい。
・ ユーザー全員に対して高い計測性能を発揮するわけではなく、かなり個人差がある。
・ キャリブレーション機能を使用する場合、テストを定期的に行う必要があり、またそれでデータ精度が上がる保証はない。


■DC Rainmakerの結論

パワーキャルは100%正確なパワーメーターとメーカーが謳っているものでもなければ、事実、毎分毎分のパワーの動きをつぶさに把握したいプロや上級ライダーには不向きかもしれない。「たったの12,000円という破格値で、今まで知ることができなかった自分のパワーレベルを大まかに把握することができる画期的な製品」。パワーキャルという製品を簡単に言い表すとしたらそんなところだろう。メーカーの説明も素直で、ホームページには以下のように記されている。


「パワーキャルはパワータップに比べてデータ精度は劣ります。パワーキャルは、パワータップに代わる新たなパワーメーターという製品ではありません。研究では、パワーキャルはユーザー個人やライディングのスタイルによって、そのデータ精度が大きく左右されることが示されています。」


推定パワー値なら、パワーキャルでなくとも無料またはそんなにお金をかけずに得ることができる。しかし、そういったツールのほとんどはライド後にパソコンなどでパワーを見るような使い方しかできないものばかりだ。もしバイクで走行中に、ハンドルバーのディスプレイでパワーを確認したいのなら、現時点ではチョイスは2つしかない。ひとつはもちろん実測式パワーメーター、そしてもうひとつはパワーキャルである。

間違っても、自分のパワーキャルのデータと仲間のパワータップのデータとを突き合わせようなどとは思わないように。ここまで見てきたように、パワータップによるパワー実測とパワーキャルによるパワー算出は、似て非なるものだからだ。やるなら、自分のパワーキャルのデータ同士を比較して、自分のレベルアップ具合を確認するような使い方が良い。

ところで、パワーキャルにピッタリはまるユーザーとして僕の頭に浮かんだのは、僕の親父だ。親父は週に100〜150マイル(160〜240km)くらい自転車に乗る人だけど、バイクレースやトライアスロンなんかとは無縁だ。親父が自転車に乗るのは、単純に乗ること自体が楽しいのと、適度なエクササイズになるからだ。最近はスピードメーターをつけてお決まりのルートを毎週走り、以前と比べてどれくらい速く走れるようになっているのかをチェックして楽しんでいるらしい。スピード情報だけで体力やスキルの進歩は計りきれないが、親父をはじめ、ほとんどのサイクリストがスピードメーターしか持っていないのが一般的な状況だ。でも、そこにパワーキャルのような製品があれば、彼らでも年間を通してデータを収集することで、体の進化についてだいたいのことが掴めるようになる。パワーキャルはパワーメーターの理想形ではないかもしれないが、多くの人にとって「使えるアイテム」なのは確かだ。このレビューで説明してきたデータだけでなく、他のユーザーのレビューでも、その見解は一致している。

かといって、みんながみんなパワーキャルを使うべきなのかというと、そうとも思わない。僕自身、毎日のトレーニングをパワーキャルで行うのは考えづらい。僕のトレーニングでは、かなりピンポイントな目標を立てて行うので、インターバルのデータなどはパワーキャルの性能以上に正確で安定していないとトレーニングにならないからだ。でも、パワーメーターユーザーの大半は毎回のトレーニングでそこまで仔細に数字を吟味するというよりは、全体的な傾向を見ながらトレーニングを行うのにパワメーターを活用しているというのが現状ではないだろうか。

つまるところ、パワーキャルはひとつの機材に過ぎない。パワーメーター関連のレビューで僕がいつも書くことだけど、強くなるには実際に外で出て、相当ハードなライドを積むことが不可欠で、パワーキャルはあくまでもその過程を記録し、分析を可能にする数あるツールのうちの(とても安価な)ひとつなのだ。Good Luck!

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DC Rainmaker

シアトル出身のアマチュアトライアスリート。テクノロジー関連の職業に従事するかたわら、趣味のバイクやランについてブログで書いたり、新製品のインプレッション記事を投稿したりしている。なかでもインプレでの分析の徹底ぶりは突出しており、またメーカーとアフィリエイトしない方針のため、製品の長所も短所も網羅した中立的なレビューが多くの読者から支持されている。

© DC Rainmaker